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りんごりくんの引越し総研
Research Institute of Moving

■はじめに
引越し市場は推計で約4,000億円前後と言われています。
※引越し業は運送業に分類されており、厳密な市場の定義や市場算出がされていません
この引越し市場、他の業界と同じように、「少子化」による「人口減少」などの社会構造の変化や、価格の叩き合いによる単価下落によって縮小の一途を辿ると目されています。

本当に引越し市場は縮小をするのでしょうか?
するとすればなぜ縮小をするのでしょうか?
このページでは、引越し市場を分解し、市場の縮小について解説します。

 

■市場を因数分解してみる
引越し市場は、大きく2つの顧客セグメントに分かれます。
1.法人の引越し
官公庁などを含む企業や団体の移転、転勤もこちらに含む
2.個人の引越し
単身、家族の引越し ※転勤は法人関係の引越し

また、市場算出の計算式を単純化すると以下のようになります。
「引越し市場=単価×引越し件数」

まずはこの「単価」について見ていきましょう。

 

■「単価(相場)が下がっている」はウソ
引越し業界の歴史を振り返ってみます。ここでわかるのは引越しの「単価」の推移です。

引越し単価相場と業者数の推移

・黎明期
引越し業界の誕生は比較的最近のことです。かつては運送業者が掛け持ちで引越しサービスを提供していましたが、1970年代になって引越し専門業者が登場します。引越し専門業者で唯一上場を果たしているサカイ引越しセンターが創業したのもこの頃です(前身となる新海商運株式会社)。

・市場形成期
日本経済は順調に成長を続けます。景気の拡大に伴い、引越し業界も規模を広げます。専門業者数も増加し、徐々に市場が形成されていきました。この動きはバブル崩壊頃(1990年代初頭)まで続きます。

・競争期
1990年に施行された「貨物自動車運送事業法」や、続けて行われた規制緩和(最低車両台数を20台から5台に変更)により、運送業の参入障壁は格段に下がりました。
また、同じく1990年に「標準引越運送約款」が制定されます。引越し料金が高騰したことや、引越し作業件数の詰め込みによるサービス品質の低下が多数の顧客トラブルを招きました。この状況を危惧した国土交通省が業界のルールを定めたもの、それが「標準引越運送約款」です。
一方、1991年にバブルが崩壊、引越し作業単価は下落傾向に転じます。
このように引越し業界にとっては激動の1990年初頭となりました。
これらが引き起こしたことは様々ありますが、結果として引越し業者の増加傾向は続き、単価は下落、競争の時代へと突入します。

・超競争期
2000年頃、インターネットが普及を始めます。
インターネットの利便性、ビジネスモデルの特徴は様々な業界の構造を変えていきました。
引越し業では「見積比較サイト」が登場。価格を比較しやすい環境が整い、引越しは「価格」が比較検討の主軸となりました。引越し各社は顧客獲得のために過度な価格競争を行い、引越し単価が著しく下落します。
引越し業者はそれらのサイトに登録をすれば、簡単に顧客を獲得できるようになりました。それまではタウンページやポスティングで顧客を獲得してきた引越し業者にとって、インターネット比較サイトは営業ツールとして費用的に優れていました。
こういった環境変化に1990年代の規制緩和も手伝い、引越し業者数はさらに増加、超競争期となります。

・現在
ネットの登場により引越し単価は下がりましたが、底は過ぎ、現在はゆるやかに上昇しています。
上昇の理由は2つあります。
1つ目は、適正価格に戻りつつある、ということです。過当競争によって下がりすぎた価格は引越し業者の経営を圧迫し、引越しサービスの品質を低下させました。安いだけの引越し業者は廃業に追い込まれています。
2つ目は、引越しスタッフの人材不足による採用費用の増加が価格に跳ね返っているということです。かつては「日払いバイト」の代名詞といえば引越しでしたが、今ではその選択肢も増え引越しスタッフの確保が難しくなっています。世の中は少子化。引越し業者にとってスタッフの確保は深刻な課題になりつつあります。

 

■「移動数は減っている」はウソ
では、引越し件数(移動数)はどうなっているでしょうか。
移動の母数と実際の移動数を見てみましょう。

まず、母数から。
日本は人口は減少時代に突入しています。

国内人口の推移

平成27年の国勢調査では、日本の人口は1億2711万人となり、平成22年から94万7千人の減少、率にすると0.7%減となりました。
一方で世帯数。

国内世帯数と一世帯あたり人員の推移

同じく平成27年の国勢調査では、世帯数は5340万3千世帯となり、平成22年から145万3千世帯の増加、率にすると2.8%増となりました。

市場規模というと、つい人口を母数と考えがちですが、実際引越しというのは「世帯」の移動のことです。引越し市場の母数たる世帯数は増加をしています。

世帯の移動数をみてみます。
平成25年住宅・土地統計調査によれば、年間で約200万世帯が移動していることがわかります(現在住居に移り住んだ時期が過去1年程度が約200万世帯存在)。

移動世帯数と内訳

また、その200万世帯のうち約125万世帯が賃貸住宅に住む世帯です。
当たり前ですが、賃貸住宅には「契約更新」があり、更新のタイミングで部屋の広さや家賃、住環境を見直し引っ越す世帯が多いのが事実です。

世帯数増加の主な要因は未婚・晩婚・離婚などによる単身世帯の増加、多くは賃貸住宅に居住をしています。
以上から、世帯は増えていて(とはいえ2015年あたりをピークに、以降は減少予測されています)、増えている世帯はよく引っ越す属性であるとみて取れます。
実際、不動産情報サイト登録物件(首都圏賃貸マンション等)の成約件数は増加傾向にあります。

不動産情報サイト登録物件の成約数

また、これらの世帯は首都圏を始めとする都市部(東京圏)に集中をしています。

 

■でも「引越し市場は縮小傾向にある」はホント
これまでの事実によれば「単価も件数も減っていない」ことになります。むしろ増えています。
でも引越し市場は縮小傾向にあります(といっても、およそ前年比99.2〜5%ですのでほぼ横ばいです、微減です)。
その要因はどこにあるのでしょうか。

1.法人の引越しは微減していると推測される
特に100坪以上の施設移転や中規模以上のオフィス移転が減少している。景気の動向に対して慎重な判断を続けている。
また転勤も減少している。転勤は会社負担の費用が多く、転勤希望者も少ないため、明確な理由がない限り転勤をさせない
2.個人の地方引越しは減少傾向であると推測される
世帯数減少に伴い引越し件数は減少している
3.個人の荷物が小口化していると推測される
これまでと比較して、各家庭の保有する荷物量が全体的に減っている。荷物量が減れば作業量が減り、引越し単価は下がる
また、全体の引越しに対して単価の安い単身引越しの比率が微増しているため、引越し単価は下がる
※前出のように「相場」は下がっていない

 

■「引越し市場規模が伸びているセグメントがある」はホント
引越し市場全体で見れば緩やかに縮小していくことが予測されますが、引越し機会の多い単身世帯は都市部において増加傾向にあり、この部分にフォーカスをすれば引越し需要は高まっています。
ざっくりと全体で見れば減少傾向にある引越し市場も、こうして分解をしていくことでその因果関係と見通しがわかってくるのです。